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東京地方裁判所 平成5年(ワ)12806号 判決 1995年7月26日

主文

一  原告、被告及び参加人の間において、参加人が別紙物件目録(四)ないし(七)及び(一三)記載の各土地につき所有権を有することを確認する。

二  被告は、参加人に対し、別紙物件目録(四)ないし(七)及び(一三)記載の各土地につき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

三  被告は、原告に対し、別紙物件目録(一四)記載の土地につき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

四  被告は、原告及び参加人に対し、

1  別紙物件目録(一)記載の建物につき、東京法務局文京出張所平成二年二月二七日受付第三五六四号所有権移転登記を別紙更正登記目録記載のとおり

2  同目録(二)及び(三)記載の各土地につき、千葉地方法務局市原出張所平成二年三月七日受付第七八四〇号所有権移転登記を別紙更正登記目録記載のとおり

3  同目録(八)ないし(一二)記載の各土地につき、同出張所同日受付第七八四二号所有権移転登記を別紙更正登記目録記載のとおり

4  同目録(一五)記載の土地につき、札幌法務局苫小牧支局平成二年三月二九日受付第六一三七号所有権移転登記を別紙更正登記目録記載のとおり

5  同目録(一六)及び(一七)記載の各土地につき、札幌法務局虻田出張所平成二年四月二三日受付第一〇一六号所有権移転登記を別紙更正登記目録記載のとおり

それぞれ更正登記手続をせよ。

五  原告及び参加人のその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は、甲事件、乙事件を通じ、これを一〇分し、その二を参加人の、その三を被告の各負担とし、その余を原告の負担とする。

理由

第一  当事者参加の申立てについて

参加人の当事者参加の申立ての適否について判断する。

本件において、原告は、太郎が昭和六三年九月二五日に死亡したことにより、本件各不動産が原告を含む太郎の相続人らに相続されたとして、被告に対し、本件各不動産について、第一次的には民法一〇一三条違反、第二次的には本件各不動産の共有持分権に基づき、本件各登記の抹消登記手続を求めているところ、参加人は、民事訴訟法七一条に基づき、原告及び被告を相手方として当事者参加の申立てを行い、物件目録(四)ないし(七)及び(一三)記載の各土地について、太郎から昭和四八年四月ころまでに贈与を受けたことを理由に、原告及び被告に対し右各土地の所有権確認を、被告に対し真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をそれぞれ求め、物件目録(一)ないし(三)、(八)ないし(一二)、(一五)ないし(一七)記載の各不動産については、太郎の死亡により相続が生じたとして、被告に対し、第一次的には民法一〇一三条違反、第二次的には右各不動産の共有持分権に基づき、被告名義の各所有権移転登記の抹消登記手続を求めている。

ところで、参加人の請求のうち、所有権確認請求及び所有権移転登記請求は、太郎の贈与を原因として、物件目録(四)ないし(七)及び(一三)記載の各土地についての所有権を主張するものであり、太郎の死亡により右各土地につき相続が発生したことを原因とする原告の請求と論理的に両立し得ないから、右各請求に関しては、参加人は、甲事件の「訴訟ノ目的ノ全部若ハ一部カ自己ノ権利ナルコトヲ主張スル第三者」(民事訴訟法七一条)に該当すると解される。

次に、参加人の抹消登記請求についてみると、右請求は、太郎の死亡により物件目録(一)ないし(三)、(八)ないし(一二)、(一五)ないし(一七)記載の各不動産につき原告とともに相続したことを原因とするものであり、請求の内容も、第一次、第二次請求ともに原告の請求と論理的に両立し得るもので、参加人は、甲事件の訴訟の結果いかんに関わらず、被告に対し抹消登記請求(所有権更正の登記を含む。)ができると考えられるから、参加人の当事者参加の申立ては、右請求に関する限り、民事訴訟法七一条の参加の要件を欠き、不適法というべきである。しかしながら、当裁判所は、当事者参加である旨の申立てに拘束されるものではなく、参加の要件を欠く場合でも、一般の訴訟要件を具備している場合には、申立てを却下することなく、これを新訴の提起と解し、本案について審理すべきものと解するところ(ちなみに、参加人も、抹消登記請求が仮に民事訴訟法七一条の当事者参加の要件を満たしていないならば、右請求については、参加人の被告に対する独立の訴えとして判決を求める旨申し立てている。)、抹消登記請求に関する本件参加申立ては、一般の訴訟要件を具備しており、新訴の提起と解することができるから、甲事件の口頭弁論と併合して審理し、本判決において裁判することとする。

第二  被告の本案前の主張(訴えの追加的変更の不許)について

被告は、本案前の主張として、原告の訴えの追加的変更は、請求の基礎の同一性を欠き、かつ、訴訟手続を著しく遅滞させるものであるとして、その変更を許さない旨の決定を求めている。

そこで検討すると、原告の当初の請求(予備的請求)は、太郎が昭和六三年九月二五日に死亡したことにより物件目録(一四)記載の土地につき相続が生じたことを原因として、被告に対し抹消登記手続を求めるものであるのに対し、変更後の新請求(主位的請求)は、太郎から昭和四八年四月ころまでに右土地の贈与を受けたことを原因として、被告に対し所有権移転登記手続を求めるものであるところ、いずれの請求も、登記手続上は抹消登記を求めるか所有権移転登記を求めるかの違いはあるが、太郎から被告に対する相続を原因とする所有権移転登記が実体を反映しない無効なものとして、右土地の所有権に基づく妨害排除請求として右登記の是正を求めるものであり、その紛争の実体、核心は、原告が太郎から右土地につき所有権を取得したか否かという点(妨害排除請求権の基本となる所有権取得を基礎づける事実)にあることを考えると、両請求は、その請求の基礎を同一にするものと認めるのが相当である。

また、本件記録に現れた右両請求に関する訴訟資料の共通性、一体性からすれば、主位的請求が追加されたからといって、訴訟手続を著しく遅滞させるものとは考えられない(なお、付言するに、参加人の所有権確認請求及び所有権移転登記請求も、原告の主位的請求も、いずれも、太郎から昭和四八年四月ころまでに当該不動産の贈与を受けたことをその原因としており、参加人への贈与の有無を審理する際に、原告への贈与の有無も併せて審理されることになるのであるから、実際上も本件訴えの追加的変更により訴訟手続が著しく遅滞することはないと言える。)。

よって、物件目録(一四)記載の土地についての原告の主位的請求は、これを訴えの追加的変更として許容すべきである(なお、被告は、本案前の主張として、本件において民法一〇一三条が適用されるとすれば、原告は当事者適格を有せず、本訴は訴訟要件を欠く不適法なものとなるとも主張するが、この点については、同条に基づく抹消登記請求の可否とともに後に検討を加えることとする。)。

第三  本案の請求について

一  関係人の身分関係等

《証拠略》によれば、本件の関係人の身分関係等につき、次の事実が認められる。

1  太郎と最初の妻松子との間には、被告及び乙山二郎が生まれたが、松子は昭和一二年一〇月二一日に死亡した。

2  太郎は、昭和一六年二月一四日に甲田竹子と再婚し、竹子との間に春子、三郎、四郎、五郎の四人の子が生まれたが、その後竹子と不仲になり、昭和五五年三月一三日、竹子との離婚の裁判が確定した。

3  原告(旧姓乙原)は、昭和三六年ころ太郎と知り合い、昭和四三年八月一七日には両人の間に参加人が生まれた。参加人は、昭和四七年二月一五日に太郎から認知され、同年三月一六日には協議によって太郎が親権者と定められ、同年四月一八日には父である太郎の氏を称して、太郎の戸籍に編入された。太郎は、昭和四三年二月以降原告との共同生活を継続し、竹子との離婚後の昭和五五年三月三一日に原告と婚姻した。

4  太郎は、胃がんのため、昭和六三年六月に虎の門病院に入院し、同年九月二五日に死亡した。

以上の事実を前提に、以下、原告及び参加人の各請求について判断する。

二  所有権確認請求及び所有権移転登記請求(甲事件請求原因2、乙事件請求原因1)

1  甲事件請求原因2(一)及び(三)の各事実、乙事件請求原因1(一)、(三)、(四)の各事実は、各事件の当事者間において争いがない。

2  太郎による贈与(甲事件請求原因2(二)、乙事件請求原因1(二))の有無

(一) 《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(1) 物件目録(四)ないし(七)記載の各土地には、昭和四七年八月一七日付け贈与予約を原因とし、権利者を参加人とする同年一二月二六日受付の所有権移転請求権仮登記が、物件目録(一三)記載の土地には、昭和四七年八月一七日付け贈与予約を原因とし、権利者を参加人とする昭和四八年一月一六日受付の所有権移転請求権仮登記が、物件目録(一四)記載の土地には、昭和四七年八月一七日付け売買予約を原因とし、権利者を原告とする昭和四八年一月一六日受付の所有権移転請求権仮登記がそれぞれされており、これら各仮登記の申請書の登記原因の欄には、右に対応して、それぞれ贈与予約あるいは売買予約との記載がある(以下これらの仮登記を「本件各仮登記」という。)。

(2) 太郎所有の不動産には、本件各仮登記のほかにも次のような各仮登記がされていた(以下これらの各仮登記を「件外各仮登記」という。)。

<1> 新宿区所在の宅地、居宅、事務所及び文京区所在の工場兼事務所の計四件につき、権利者を株式会社甲山とする昭和四七年一二月八日受付の所有権移転請求権仮登記

<2> 千代田区所在の宅地及び店舗の計二件につき、権利者を株式会社甲山とする昭和四七年一二月一一日受付の所有権移転請求権仮登記

<3> 千葉県市原市犬成字の畑二件につき、権利者を株式会社甲山とする昭和四七年一二月二六日受付の所有権移転請求権仮登記

<4> 千葉県市原市大作字の山林計五件につき、権利者を被告とする昭和四七年一二月二六日受付の所有権移転請求権仮登記

<5> 北海道苫小牧市字錦岡の山林一件につき、権利者を被告とする昭和四八年一月一六日受付の所有権移転請求権仮登記

(3) 太郎は、被告に登記権利者、登記原因及びその日付の指示をして、本件各仮登記及び件外各仮登記の登記手続を行わせた(本件各仮登記の登記原因の日付(昭和四七年八月一七日)は、参加人の満四歳の誕生日と一致しているが、件外各仮登記の登記原因の日付は、各仮登記権利者にとって特に意味のある日ではない。)。太郎が右手続を指示した理由は、太郎と竹子及び三郎らとの間で、太郎が代表取締役である有限会社甲山の経営権をめぐって争いが生じ、太郎所有の財産を竹子及び三郎らの攻撃から守る必要が生じたためであった。

(4) 太郎は、昭和四七年一二月ころ作成した「一、カズオの件」の書き出しで始まる書面において、参加人の名義にした財産は、参加人が甲野姓を名乗る限り名義は有効であり、乙原姓になった場合でも、右財産を原告の自由にはさせないと述べている。

(5) 昭和四八年四月ころ、太郎が原告及び参加人と港区六本木に転居した前後に、太郎は、原告に対し、「一夫には北海道と千葉の土地をやってある。」「おまえにも北海道に土地が少しある。」「一夫の三分の一にもならないかもしれない、お前の気に入るところではないけど。」などと述べた。

(6) 太郎は、昭和五〇年四月四日に公正証書による遺言(旧遺言)をし、その中で、太郎の財産をすべて被告に相続させる意思を明らかにするとともに、参加人に対しては、その養育及び教育等について被告が太郎の意に沿った適当な措置をとることを求めている。

(7) 前記件外各仮登記は、昭和五五年六月二五日から順次抹消登記手続がされ、昭和六一年九月一日までに右手続が終了したが、本件各仮登記は抹消されていない。

(8) 昭和六二年に参加人が大学受験に失敗したころ、太郎は、参加人と同人の将来についての話し合いをする中で、参加人に対し、「おまえには北海道と千葉に土地がある。」と述べた。

(9) 太郎は、虎の門病院に入院中の昭和六三年七月一三日、見舞いに訪れた古くからの知人戊野梅子に対し、原告の同席していない病室において、「花子には今住んでいる港区六本木の家屋と土地、それと北海道の土地を少しやってある。」「一夫には北海道と千葉の土地をやってある。これだけあれば一夫が大学を出て独り立ちするまで何とかなると思う。」などと述べた。戊野は、太郎の右発言を聞いた直後、その内容を原告に伝えたが、原告は六本木の家屋と土地及び北海道の土地の件は既に知っていた。

(10) 太郎は、昭和六三年八月一八日、入院中の同病院の病室において、原告及び参加人とともに、自分の誕生日と併せて参加人の誕生祝いを行ったが、その際、参加人には北海道及び千葉の土地を与えてあり、原告にも北海道の錦岡に土地が少しあると述べた。

(11) 太郎は、昭和六三年九月一四日、公正証書による遺言(新遺言)を行い、原告に六本木の土地を相続させるものとし、太郎のその余の遺産についても、原告は別途に指定相続分四分の一の割合で遺産分割協議に参加できるものとした。

(二) 以上によれば、本件各仮登記は、参加人が太郎によって認知され、太郎の氏(甲野姓)を称することとなり、太郎の戸籍に入籍したという一連の流れの中でされたものであること、本件各仮登記の日付は、いずれも参加人の満四歳の誕生日と一致しており、太郎は、しばしば関係者に対し、本件各仮登記の付けられた各不動産を原告及び参加人に贈与する趣旨の発言をし、また、同趣旨の書面を作成していること、件外各仮登記がいずれも竹子との離婚後に抹消されているにもかかわらず、本件各仮登記は抹消されないまま残されていることが認められ、これらの事実を考慮すると、本件各仮登記は、単に竹子及び三郎らの攻撃から太郎所有の財産を守るためのみの目的でされた実体を欠くものではなく、真実、太郎から原告及び参加人への贈与の意思をもってされたと推認することができる。そして、右推認に加えて、前記の各認定事実を総合すると、遅くとも、昭和四八年四月ころに、太郎が原告に対して、原告及び参加人に北海道及び千葉の土地を与えてある旨述べた際に、物件目録(一四)記載の土地につき原告の承諾により贈与契約が成立し、また、参加人についても、右当時同人の親権者が太郎自身であったことからすれば、物件目録(四)ないし(七)及び(一三)記載の各土地につき贈与契約が成立したものと認めるのが相当であり、これに反する被告の主張は、前記認定事実に照らし採用できない。

(三) 被告は、仮に太郎が原告及び参加人に対し前記各不動産の贈与を行ったとしても、右贈与は書面によらざる贈与であるとして、その取消しを主張する(甲事件抗弁2、乙事件抗弁1)。

しかしながら、太郎は、前記認定のとおり、本件各仮登記の申請書に贈与予約あるいは売買予約との記載をして本件各仮登記の申請をしており、右申請書に太郎の贈与の意思が確定的に表示されているとみることができるので、右贈与は書面による贈与ということができる。よって、右贈与が書面によらない贈与であることを前提とする被告の右主張は失当である。

3  以上によれば、物件目録(一四)記載の土地について、被告に対し真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求める原告の請求、物件目録(四)ないし(七)及び(一三)記載の各土地について、原告及び被告に対し所有権の確認を求め、かつ、被告に対し真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求める参加人の請求は、いずれも理由がある。

三  抹消登記請求(甲事件請求原因1、乙事件請求原因2)

1  甲事件請求原因1(一)ないし(四)、乙事件請求原因2(一)ないし(四)の各事実、甲事件請求原因1(五)及び乙事件2(五)の各事実のうち、新遺言につき、東京家庭裁判所により遺言執行者として松浦登志雄弁護士が選任されていること、被告が右弁護士に無断で、本件各土地につき本件各登記をしたこと、以上の各事実は、各事件の当事者間において争いがない。

2  ところで、原告の被告に対する抹消登記請求は、前記のとおり、太郎の死亡により本件各不動産につき相続が生じたことを原因とするものであるが、物件目録(四)ないし(七)及び(一三)記載の各土地が太郎から参加人に生前贈与されたことは前記認定のとおりであるから、右各土地についての原告の抹消登記請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

3  民法一〇一三条違反に基づく抹消登記請求(甲事件請求原因1(五)、乙事件請求原因2(五))について

(一) 民法一〇一二条一項が「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と規定し、また、同法一〇一三条が「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」と規定しているのは、遺言者の意思を尊重すべきものとし、遺言執行者をして遺言の公正な実現を図らせる目的に出たものであり、右のような法の趣旨からすると、相続人が、同法一〇一三条の規定に違反して、遺言執行者によって管理される相続財産を処分した場合には、右処分行為は、処分権を有しない者のした処分行為として、遺言執行者及びその執行により利益を受ける者に対してだけでなく、すべての人に対して無効であると解するのが相当である。

もっとも、遺言の執行は、執行を必要とする遺言事項の存在を前提とするものであるから、遺言の執行を必要とする事項が遺言の内容になっていない場合、遺言執行者の指定は無意味であり、当然のことながら、民法一〇一三条違反の問題を生じない。

(二) これを新遺言についてみると、新遺言の第一条は、六本木の土地を原告に相続させるというものであり、右条項により、太郎は、六本木の土地を原告に単独で相続させる遺産分割の方法を指定したものと考えられるところ、このような遺言にあっては、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が相続により承継されるものと解すべきであり、右特段の事情の認められない本件においては、原告は、被相続人である太郎の死亡の時に、六本木の土地を相続により承継取得したというべきである。そして、右承継取得については、原告は、遺産分割協議がなくても、相続を原因とする所有権移転登記の申請をすることができるとするのが登記実務の取扱いであるから(昭和四七年四月一七日法務省民事局長通達)、第一条に関する限り、遺言執行者による遺言の執行を必要としないと解すべきである。

次に、新遺言第二条は、六本木の土地を除く太郎のその余の遺産については、原告は、「別途に、指定相続分四分の一の割合で、分割協議に参加し得るものとする。」というものであるところ、右条項は、六本木の土地を除く太郎の遺産について、原告の相続分を法定の相続分と異なる四分の一と指定した趣旨と解され、特に分割方法等を指定する趣旨の文言も存しないことからすると、具体的な遺産分割の実行を遺言執行者に委託したものとみるべきではない。そうすると、太郎の右遺産については、第二条により、相続開始と同時に原告が四分の一の持分を取得し、太郎の他の相続人との共有状態となり、これによって右遺言の内容が実現されたものであり、共有状態となった右遺産の分割は、相続人間の協議にゆだねられ、又は遺産分割の審判により実現されることになるのであって、結局、第二条についても遺言執行者による執行の余地はないものというべきである。

(三) 以上のとおり、新遺言第一、第二条のいずれについても、遺言執行者による執行の余地がない以上、本件においては民法一〇一三条違反の問題は生じないものと解される。よって、同条違反に基づき、被告に対し、被告名義の各所有権移転登記の抹消登記手続を求める原告及び参加人の各請求はいずれも理由がない。また、本件に同条が適用されることを前提とする被告の本案前の主張(原告適格の不存在)も理由がない。

4  共有持分権に基づく抹消登記請求(甲事件請求原因1(六)、乙事件請求原因2(六))について

(一) 太郎が旧遺言と新遺言という二通の公正証書遺言を作成していることは各事件の当事者間において争いがないところ、原告及び参加人の各抹消登記請求の可否を検討するにあたり、まず、右両遺言の関係、すなわち、両遺言の抵触の有無、程度について判断する。

(1) 《証拠略》によれば、旧遺言においては、太郎の全遺産を被告に相続させる(第一条)ものとし、被告及び堀口嘉平太弁護士の二名を遺言執行者に指定(第八条)していたところ、新遺言においては、原告に六本木の土地を相続させる(第一条)としたほか、六本木の土地を除くその余の太郎の遺産について、原告は指定相続分四分の一の割合で分割協議に参加し得る(第二条)とした上で、五藤昭雄弁護士を遺言執行者に指定(第三条)していること、旧遺言は昭和五〇年四月四日に、新遺言は六三年九月一四日にそれぞれ作成され、その間一三年余りが経過していること、太郎は、虎の門病院入院中の昭和六三年七月ころ、旧遺言の内容を訂正したい旨堀口弁護士に申し入れたことがあること、太郎は、新遺言を作成する際、右遺言作成に関与した五藤弁護士及び石川公証人に対し、旧遺言が存在することを話さなかったこと、太郎は、新遺言を作成した事実を被告に何ら告げないまま死亡したことが各認められる。

(2) ところで、民法一〇二三条の規定の趣旨は、遺言者の生前の最終意思を尊重するところにあるものと解されるから、同条一項の「抵触」とは、両遺言の内容を実現することが客観的に不可能な場合のみならず、後の遺言を作成するに至った経緯等諸般の事情に照らして、前の遺言と両立させない趣旨で後の遺言がされた場合を含むものと解するのが相当である。

(3) これを本件についてみると、原告は、新遺言第一条により六本木の土地を取得し、第二条により六本木の土地を除く太郎の遺産につき四分の一の持分を取得すると解されることは前記説示のとおりであり、右の点については、太郎の遺産を被告に単独相続させるとした旧遺言第一条と明らかに矛盾している上、六本木の土地を除く太郎の遺産のうち、原告の相続分を除いた残り四分の三についても、新遺言第二条の文言が「分割協議に参加し得る」とされており、右は、他の複数の相続人間の分割協議を前提にして、その協議に原告が参加することができる旨定めたと解するのが自然であること、旧遺言と新遺言とでは遺言執行者が変更されていること、旧遺言が作成されてから新遺言が作成されるまで一三年余りが経過しており、その間、太郎と被告との間にも様々な感情の推移があったであろうことは容易に推測できること、太郎は、旧遺言の存在を失念していたわけではないが、新遺言作成に関与した五藤弁護士及び石川公証人には旧遺言の話をしなかったこと、したがって、法律の専門家である右二名は、原告、被告以外にも太郎の相続人が存在することを念頭において新遺言作成に関与していること、太郎は、旧遺言において自己の財産を単独相続させるとした被告に対し、新遺言作成を何ら告げずに死亡したこと等の事情を総合考慮すれば、太郎は、旧遺言作成当時とは異なる新たな気持ちで新遺言を作成したものと考えられ、旧遺言と両立させない趣旨で新遺言を作成したものというべきであるから、右両遺言は全面的に抵触していると解される。その結果、旧遺言は新遺言により全面的に取り消されたものとみなされる(民法一〇二三条一項)。

(二) そこで、原告の抹消登記請求の可否について検討すると、原告が、新遺言第二条により、六本木の土地を除く太郎の遺産について、相続開始と同時に四分の一の持分を取得したと解されること、旧遺言が新遺言により全面的に取り消されたものとみなされることは、いずれも前記説示のとおりであり、原告は、自己の持分を登記なくして被告に対抗しうると解され、被告に対し、被告名義の各所有権移転登記の抹消登記手続を請求することができるが、被告も持分を有する以上、原告は、自己の持分についてのみ妨害排除請求権を有するに過ぎないから、被告に対し請求できるのは、全部抹消登記手続ではなく、原告の持分四分の一についてのみの一部抹消(更正)登記手続であると解される(この点、被告は、遺留分減殺請求により登記をする場合は持分移転登記によることとなるが、遺留分減殺請求も相続分の指定も所定相続分の修正という意味で本質的に変わるところはないから、本件でも、更正登記ではなく、原告の持分についての移転登記によるべき旨主張する。遺留分減殺請求権を行使した結果、遺産を単独相続し、その旨の所有権移転登記を経由した者との間で遺産共有の状態が生じた場合には、登記を是正する方法としては、持分移転登記によることが相当と解されるが、右の場合には、単独名義の所有権移転登記がされた当時は、登記と実体関係に不一致はなかったと考えられるのに対し、本件は、被告名義の所有権移転登記がされた当初から、登記と実体関係の間に原始的な不一致がある場合なのであるから、右不一致の是正は更正登記の方法によるべきと解される。)。

(三) 次に、参加人の抹消登記請求の可否について検討すると、新遺言によって旧遺言が全面的に取り消されたものとみなされることは前記説示したとおりであり、参加人は、六本木の土地を除く太郎の遺産について、原告の相続分(四分の一)を除いた残り(四分の三)を、他の相続人とともに法定相続分に従って相続することになるものと解される。そして、太郎の相続人として、原告(妻)、被告、乙山二郎、丙川春子、甲野三郎、甲野四郎、甲野五郎及び参加人(いずれも子)がいることは前記第三の一認定のとおりであるから、参加人は、前記太郎の遺産について、二八分の三の共有持分を有しているものと認められ、原告と同様に、右の持分の限度で、被告に対し、一部抹消(更正)登記手続の請求ができる。

(四) 以上によれば、物件目録(一)ないし(三)、(八)ないし(一二)、(一五)ないし(一七)記載の各不動産についての被告名義の各所有権移転登記は、原告及び参加人の各共有持分を侵害している部分については、これを是正する必要が認められ、右各不動産の共有持分権に基づき、被告に対し、右各登記の抹消登記手続を求める原告及び参加人の各請求は、右各不動産につき、別紙更正登記目録記載のとおりの更正登記手続を求める限度で理由がある。

第四  結論

以上の次第であるから、参加人の原告及び被告に対する所有権確認請求、原告及び参加人の被告に対する各所有権移転登記請求はいずれも理由があるからこれを認容し、原告及び参加人の各抹消登記請求は、被告に対し、物件目録(一)ないし(三)、(八)ないし(一二)、(一五)ないし(一七)記載の各不動産につき、別紙更正登記目録記載のとおり更正登記手続を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 滿田忠彦 裁判官 加藤美枝子 裁判官 足立 勉)

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